収束空間
収束空間の研究はCartanから約10年後にChoquetなどにより始められた。収束空間の定義は様々だが、Eva Lowen-ColebundersのFunction Classes of Cauchy Continuous Maps(1989)で言及されている(らしい)定義を採用する。
定義
Xを集合とする。各点x∈XについてXのフィルターの族λ(x)が与えられているとする。λ:x↦λ(x)が以下を満たすとき、(X,λ)を収束空間(convergent space)と呼ぶ。
- ⟨x⟩∈λ(x)である。
- F∈λ(x)とする。フィルターG⊂2XについてF⊂GならG∈λ(x)を満たす。
- F,G∈λ(x)ならF∩G∈λ(x)である。
フィルターF⊂2XについてF∈λ(x)であることをF→xと書けばλを明示せずに収束空間を定義できる。この意味で上記を満たす関係→を収束構造(convergent structure)とも呼ぶ。(Xのフィルター全体をΦ(X)とすれば、Φ(X)×Xの部分集合としての「関係」である。)またF→xのことを、Fがxに収束するともいう。xはFの極限点や収束先ともいう。
位相空間の近傍系x↦N(x)は収束構造を定める。これについては後で詳しく扱うとして、ここではもう少し素朴な例を挙げよう。
例
有向グラフ(directed graph)とは、頂点の集合Vと、向き付けられた辺の集合E⊂V×Vの組(V,E)である。(有向辺(v,u)∈Eは始点vから終点uへの矢印で表す。)有効グラフが反射的(reflexible)とは、任意の頂点v∈Vについて(v,v)∈Eが成り立つことを言う。
さて反射的有向グラフ(V,E)において、頂点v∈Vについてvから出る矢印の終点全体
v:={u∈V:(v,u)∈E}
を考える。このとき収束構造F→vをv∈Fで定めることができる。実際、(v,v)∈Eよりv∈vだからv∈⟨v⟩である。F→v,F⊂Gとすれば、v∈F⊂GよりG→vである。v∈F,Gならv∈F∩Gも成り立つ。このようにして反射的有向グラフは収束空間となる。この収束構造において、単項フィルター⟨v⟩はvに収束する。
念頭にあるのは収束空間のカテゴリーである。次は射について考えてみよう。
定義
X,Yを収束空間、f:X→Yを写像とする。x∈Xとする。任意のフィルターF⊂2Xについて、F→xならf∗F→f(x)が成り立つとき、写像fはxで連続(continuous)であるという。任意の点x∈Xでfが連続なとき、fは連続であるという。
命題
X,Y,Zを収束空間、f:X→Y,g:Y→Zを写像とする。f,gが連続ならg∘fも連続である。
(証明)f,gは連続とする。F→xに対しf∗F→f(x)であるからg∗(f∗F)→g(f(x))を得る。g∗∘f∗=(g∘f)∗より、g∘fも連続となる。□
例
反射的有向グラフの例で連続写像を見てみよう。f:(V1,E1)→(V2,E2)をグラフ間の写像として、v∈V1とする。fがvで連続であるとしよう。このとき単項フィルター⟨v⟩はvに収束するから⟨v⟩→vである。故にf∗⟨v⟩→f(v)が成り立つ。つまりf(v)∈f∗⟨v⟩であって、従ってf(v)⊂f(v)が成り立つ。逆にf(v)⊂f(v)が成り立つなら、F→vについてv∈Fよりf(v)∈f(F)⊂f∗Fである。よってf(v)∈f∗Fとなりfはvで連続となる。従って次が成り立つ。
定理
f:(V1,E1)→(V2,E2)を反射的有向グラフの間の写像とする。v,u∈V1とする。以下は同値である。
- fはvで連続である。
- f(v)⊂f(v)が成り立つ。
更に以下も同値である。
- fは連続である。
- (v,u)∈E1なら(f(v),f(u))∈E2が成り立つ。(つまりfはグラフ準同型である。)
カテゴリー論的に言えば、反射的有向グラフとグラフ準同型の為す圏は、収束空間と連続写像の為す圏に忠実充満に埋め込める。この意味で連続性は自然な定義と言える。実はそれだけでなく、位相空間の圏もまた忠実充満に埋め込める。後で述べるが、収束空間の圏はカルテシアン閉であり、特にXからYへの連続写像全体C(X,Y)もまた「自然な」収束構造を持つ。位相空間の圏はこの性質を持たない(反射的有向グラフの圏も持たない?)ため、我々が収束空間について考える良い動機付けになっている。(なお位相空間が特別な場合には、コンパクト開位相という自然な位相が入る。これはこれで考察する意義がある。)
定義
収束空間の間の写像f:X→Yが全単射でf及びf−1が連続のとき、XとYは収束空間として同型(isomorphic)であるという。