超フィルター
既にフィルター全体が包含に関して順序構造を持つことを見た。このとき与えられた2つのフィルターについて、下限は常に存在するが、上限は必ずしも定義されない。この事実から、大きなフィルターには特別な意味があると推察できる。
定義
包含順序に関して極大なフィルターを超フィルター(ultra filter)と呼ぶ。
例
点フィルターは超フィルターである。実際フィルターF⊂2Xについて⟨x⟩⊂Fとする。F∈Fについてx∈/FならF∩{x}=∅∈Fとなり矛盾する。従ってx∈Fが常に成り立つ。
定理
任意のフィルターF⊂2Xについて、Fを含む超フィルターが存在する。
(証明)Xのフィルター全体をΦ(X)とする。Ψ:={G∈Φ(X):F⊂G}の全順序部分集合τを取れば、⋃A∈τAはフィルターであり、更にτのΨにおける上界を与えている。故にΨは帰納的であり、Zornの補題より極大元Uを持つ。これはFを含む超フィルターである。□
超フィルターは次の特徴付けを持つ。
補題
U⊂2Xをフィルターとする。以下は同値である。
- Uは超フィルターである。
- 任意のA⊂XについてA∈UまたはX∖A∈Uが成り立つ。
(証明)右を仮定しよう。U⊊Vとすると、あるV∈V∖Uが存在する。すると仮定よりX∖V∈U⊂Vとなる。V,X∖V∈VとなるがこれはVがフィルターであることに矛盾する。
逆に左を仮定しよう。A∈/Uについて、U∖A={V:∃U∈U,U∖A⊂V}はUを含むフィルターである。ここでX∖A∈U∖Aとなるが、極大性よりU∖A=Uである。故にX∖A∈Uである。□
この特徴付けを用いて、超フィルターに関するいくつかの性質を導いておく。
命題
U⊂2Xを超フィルターとする。S1,…,Sn⊂XについてS1∪⋯∪Sn∈Uなら、あるjについてSj∈Uが成り立つ。
(証明)nに関する帰納法で示す。n=2のとき、S1,S2∈/Uとする。特徴付けよりX∖S1,X∖S2∈Uである。しかしX∖(S1∪S2)=(X∖S1)∩(X∖S2)∈Uより、S1∪S2∈/Uでなければならない。これは矛盾である。
n=k+1のとき、(S1∪⋯∪Sk)∪Sk+1∈Uとする。Sk+1∈/Uならn=2とみなしてS1∪⋯∪Sk∈Uである。仮定より、ある1≤j≤kについてSj∈Uが従う。□
命題
U1,…,Un⊂2Xを超フィルターとする。超フィルターV⊂2XについてU1∪⋯∪Un⊂Vなら、あるjについてV=Ujが成り立つ。
(証明)任意のjについてUj̸=Vであるとしよう。Ujの極大性よりUj⊊Vであるから、あるUj∈Uj∖Vが存在する。Vは超フィルターだからX∖Uj∈Vである。X∖(⋃k=1nUk)=⋂k=1n(X∖Uk)∈Vだから⋃k=1nUk∈/Vとなる。ところがUj⊂⋃k=1nUkより⋃k=1nUk∈Ujであり、従って⋃k=1nUk∈U1∩⋯∩Un⊂Vを得る。これは矛盾である。□
例でも示したが点フィルターは超フィルターであった。逆に超フィルターは有限集合を要素とするなら点フィルターである。
命題
超フィルターが有限集合を要素とするなら、それは点フィルターである。
(証明)U⊂2Xを超フィルターとする。F∈Uを元の個数が最小の有限集合とする。任意のG⊊FについてG∈/Uであるから、U∖G={V:∃U∈U,U∖G⊂V}はUを含むフィルターとなる。極大性よりU=U∖Gだが、特にF∈UよりF∖G∈U∖G=Uとなる。しかしFの最小性よりG=∅でなければならず、そのためにはFの要素は1つでなければならない。点フィルターは超フィルターであるから、⟨F⟩=Uが従う。□
系
Xが有限集合のとき、以下が成り立つ。
- 超フィルターは点フィルターである。
- フィルターは単項フィルターである。
(証明)1つ目は上の命題より明らか。2つ目は、フィルターF⊂2Xに対し、元の個数が最小の要素をF∈Fとする。G∈FについてF∩G∈Fだから、最小性よりF⊂Gが従う。故にF=⟨F⟩である。□
系の観察が重要な性質を示唆してくれる。単項フィルター⟨F⟩についてF={x1,…,xn}とすれば、⟨F⟩=⟨x1⟩∩⋯∩⟨xn⟩が成り立つ。Xが有限集合のとき、任意のフィルターは単項フィルターで表せるが、その要素の点フィルターは超フィルターであって、更に共通部分が元のフィルターと一致する。この事実は任意の集合上でも成り立つ。
定理
F⊂2Xをフィルターとする。このときFはFを含む超フィルターの共通部分と一致する。
(証明)Fを含む超フィルターの共通部分をΥとする。定義よりF⊂Υは明らかなので、逆を示そう。F⊊Υとすれば、あるU∈Υ∖Fが存在する。このときF∖U={V:∃F∈F,F∖U⊂V}はFを含むフィルターとなる。さて、U∖Uを含む超フィルターが存在するから、その1つをVとしよう。このときF⊂F∖U⊂Vより、V∈Υである。X∖U∈F∖U⊂VだがU∈Υ⊂Vより矛盾する。□
最後にpush-forwardと超フィルターの関係について述べよう。
命題
f:X→Yを写像とする。U⊂2XをXの超フィルターとすると、f∗U⊂2YはYの超フィルターである。
(証明)W∈/f∗Uとする。f−1(W)∈Uならf(f−1(W))⊂WよりW∈⟨f(U)⟩=f∗Uとなり矛盾する。故にf−1(W)∈/Uだから特徴付けよりX∖f−1(W)∈Uが従う。f(X∖f−1(W))⊂Y∖WよりY∖W∈⟨f(U)⟩=f∗Uを得る。□
命題
f:X→Yを写像とする。F⊂2XをXのフィルターとする。f∗Fを含むYの超フィルターV⊂2Yについて、あるXの超フィルターU⊂2Xが存在して、UはFを含み、f∗U=Vを満たす。
(証明)直観的にはFとf∗Vを含む超フィルターを取ればよい。まずはpull-backが定義できることを示そう。V∈Vとする。f(X)⊂Y∖VならY∖V∈f∗F⊂Vより矛盾する。よってf−1(V)̸=∅である。次にF∨f∗Vを考えるため、交叉の条件を見る。prefilterのvel積は生成と可換だったので、F∈F及びV∈VについてF∩f−1(V)̸=∅であることを示せば良い。実際f(F)∩V=∅ならf(F)⊂Y∖Vとなり、先ほどと同様にY∖V∈Vとなって矛盾する。以上より、Fとf∗Vを含むフィルターを構成することができた。後はこれを含む超フィルターUを取ればよい。このときF⊂Uであり、V⊂f∗(f∗V)⊂f∗Uと極大性よりV=f∗Uが従う。□